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第14回目 脳は傷ついても回復する?


自転車やバイクを運転する人はヘルメットで頭を守っていますよね。なぜ頭を守らなければならないのでしょうか。

神経解剖学者のラモニ・カハールにより一度損傷を受けた脳などの中枢神経は再生しないと言われてきており、脳卒中や頭部外傷などにより脳が損傷した場合、その脳領域の担う機能は永続的に損なわれると考えられていました。たとえば、運動を担う領域が損なわれると手足を動かすことができなくなってしまうといったものです。

しかしながら、その一方で運動療法などのリハビリテーションによって失われた機能をある程度は取り戻すことができることが報告されています。このような回復の背景には“神経可塑性”が大きく寄与しています。神経可塑性とは、脳内の神経細胞において神経細胞間のシナプス伝達の効率の変化、シナプス新生、神経細胞の樹状突起・軸索の側芽伸長というような機能的、構造的変化のことをいいます。したがって、リハビリテーションを実施することで神経可塑的変化を誘導し、残存する脳領域の機能局在や神経回路を変化させ、失われた機能をある程度取り戻すことができると考えられています。つまり、脳梗塞で指を動かす脳領域が損なわれ、手首を動かす信号を出せなくなっていた神経細胞がリハビリテーションによって指を動かす信号をまた発することができるようになるわけです。つまり、神経可塑性を促進するリハビリテーションのような介入をすることにより脳損傷後の回復がより良くなると考えられます。

最近、シナプスにおけるAMPA受容体を増やすことによりシナプスの伝達効率を増加する薬剤が見出され、これを用いて脳損傷後の運動機能の回復を促進することができるということが報告されました(阿部、實木ら、Science 2018)。今回用いた薬剤により脳損傷を施されたマウスやサルの運動機能を損傷前と同水準まで回復させることができたことから、神経可塑性を促進することで脳損傷により失われた機能の回復を促進することが示されました。

今回の結果は、損傷を免れた脳領域の元々持っていた機能が書き換わって、運動機能を担うようになったということを示唆しますが、なぜAMPA受容体が増加することで機能が書き換わったのかについては今後明らかにしていく必要があると考えられます。
脳にはまだまだ秘められた回復力が眠っているようですね。

文責: 實木 亨
所属学会: 日本神経科学学会 日本生理学会
所属機関: 横浜市立大学医学部 生理学