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第10回目 電気で脳を活性化!?

第10回脳科学豆知識

脳を電気刺激すると脳が活性化する、なんていうとおやっと思われるかもしれませんが、脳科学分野では注目されています。それは、経頭蓋(けいずがい)的直流電気刺激(tDCS)という方法で、極めて微弱な電気(1 mA程度)を10-30分程度流すものです。人間の脳に対する効果の詳細なメカニズムは未だ分かっていないため、安全性を含めた基礎研究を進めています。

脳組織は血管と神経細胞から成り立っていることはよく知られていますが、実は他にも「グリア細胞」と呼ばれる脳細胞があります。グリアとは膠(にかわ)という意味で、これまでは単に、神経細胞の隙間を埋めるサポート役に過ぎないと考えられてきました。

ところが近年、実はグリア細胞も重要な働きをしているということが分かってきました。グリア細胞の一種であるアストロサイトは、神経細胞が正常に働けるように環境整備を行っています。例えば、血管と神経細胞のインターフェースとして、神経細胞に栄養を供給したり、老廃物を取り込んだり、リサイクルしたりしています。さらに、アストロサイトが活性化すると、神経細胞間の情報伝達効率を変化させる作用を持つことも知られています。この情報伝達効率の変化は、記憶や学習の基盤と考えられています。

マウスの脳を電気刺激すると、驚いたことに、アストロサイトが活性化することを発見しました。さらに刺激を止めた後も、長時間に渡って神経細胞間の情報伝達効率が良くなることがわかりました。一方、アストロサイトの活性化を抑えると、電気刺激をしてもそのような効果は得られませんでした。電気刺激によるアストロサイトの活性化が病気の改善とどのように関連しているかは、今後解明していく必要がありますが、グリア細胞への影響も含めて、慎重に安全性を議論していく必要があります。

グリア細胞は脳の中で意外な働きをしているのかも知れません。

文責:毛内 拡
所属学会:日本神経科学学会、日本神経化学会、日本バイオイメージング学会
所属機関:お茶の水女子大学 理学部 生物学科