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第21回目 自閉症とロボット

脳科学豆知識 第21回 「自閉症とロボット」
自閉スペクトラム症とは

自閉スペクトラム症(ASD)者は、アイコンタクト、表情、ジェスチャー、といった非言語性コミュニケーションの使用が少ないことが知られております。非言語性コミュニケーション能力の障害は、学業成績の低下、生活の質の低下、行動の困難など、さまざまな悪影響をもたらすことが示唆されております。このようにASDの非言語性コミュニケーションの問題が、社会的予後に与える影響は大きいが、効果的な治療は乏しい現状があります。自閉症児の中には、そもそも向社会的態度を抱くことが難しく治療に前向きになれないケースが多いです。

ロボットへの親和性

近年のロボット技術の進歩には目覚ましいものがあります。特定のコンピューターとロボットのアプリケーションを効果的に利用することで、ASD者に革新的なコミュニケーション訓練法を提供できるのではないかの議論は以前からなされてきました。ASD者の多くは、社会的な世界と比較して物理的な世界への理解が強いこと、テクノロジーへの本能的な興味の強さや違いなどが議論の背景にありました。ロボットは制御性や再現性などの利点があり、対話者の反応に関係なく、スムーズで正確な会話を行うことも利点となります。ヒトとは異なり、ロボットは予測可能で合理的なシステムの中で動作するため、ASD者に高度に構造化された学習環境を提供し、療育者の意図する刺激の中での集中を可能にします。ヒューマノイドロボットとの構造化された環境の中での相互作用は、特定の社会的行動を引き出す潜在性があります。

実際に行われている研究成果

現在まで、「ロボットはASD者のアイコンタクト・共同注意を促す」、「ロボットを用いることでノンバーバルコミュニケーションの理解が促される」、「ロボットを用いることでASD者の感情理解が進む」「ASD者は会話の内容によっては、ヒトよりロボットの方が自己開示しやすい」といったことへの予備的成果を認めております。ヒトに苦手意識を有することが多いASD者にとって、ヒトでなくロボットが主体となる介入に一定の効果が認められる事実からも、今後の新たな治療法としての期待感は大きいものがあります。

今後の課題

このようにASDとロボットとの親和性についての知見が集まってきておりますが、すぐに臨床の場で使用できるかというと注意が必要です。現在までの本領域の知見では1か月を超えるような長期的なかかわりはほとんど行われておりません。現在のところ、短期的なコミュニケーション相手としてロボットはよさそうであるが長期的にもASD者が集中して関わるには工夫が必要かもしれません。また長期的な介入では依存、倫理の問題のクリアも重要となってきます。ロボットが魅力的な存在である場合、ASD者はロボットとのコミュニケーションで完結して依存関係となってしまう可能性があります。またロボットだから話しやすいということが認められたとして、そのあとロボットに話したことをヒトが知るということが本当に認められるのかという疑問が残ります。またロボットには多くのセンサーを取り付け情報収集することができますが、その情報管理の問題も重要となってきます。一方でコロナ感染が遷延する中で、ロボットはsocial distanceが取れるというメリットは重要であります。技術者と支援者が手を組み、ASD者へのボットを用いた治療を発展させることが期待されます。

文責: 熊﨑博一
所属学会: 日本神経心理学会、日本心理学会、公益財団法人日本精神神経学会、日本生物学的精神医学会
所属機関: 国立精神・神経医療研究センター精神保健研究所児童・予防精神医学研究部児童・青年期精神保健研究室