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第26回 MRIで脳内のネットワークを解明する


 臨床で用いられる磁気共鳴画像(magnetic resonance imaging: MRI)は病変信号の大小(明るさ、暗さ)によって腫瘍や梗塞などの疾患を診断する強力なツールとなっています。MRIが持つポテンシャルはそればかりでなく、拡散画像や機能画像(functional MRI: fMRI)を用いることで脳内のネットワーク(局所と局所とのつながり具合、ネットワーク全体の効率性など)を非侵襲的に測定・解析することができます。拡散画像、fMRIで測定されるネットワークをそれぞれ形態的接続性、機能的接続性といい、前者では白質の、後者では皮質のネットワークが対象となります。

 拡散画像では白質線維束と平行方向への水分子の拡散は大きく、それと垂直方向には小さいという現象を利用することで、白質線維束方向を推定することができます。この手法を拡散トラクトグラフィー(diffusion tractography)といいます(図参照)。これにより脳内の局所同士が白質を介してどの程度の確率で接続しているかを測定することができるようになります。

 また特定の刺激や課題によって局所血液の酸素化の度合い(blood oxygenation level dependent: BOLD)が変化する現象を利用して、当該の脳活動が皮質のどの部分で生じているかを探索する強力なツールとして当初注目されたfMRIでしたが、安静時においても、関連する領域のBOLD信号が時間的に相関して変化することが発見され(安静時機能的ネットワーク)ました。さらにアルツハイマー病においてデフォルト・モード・ネットワーク(default mode network)といわれる領域において安静時の時間的相関が低下する現象が報告され、その後様々な疾患に対する応用が爆発的に進んできました。

 いずれの手法でも脳領域をあるアトラスに従って分割し(分割された領域をnodeという)、そのnode間を接続する強さ(edge)を測定します。拡散画像では白質の接続確率や描画される線維束の本数、fMRIではBOLD信号の時間的変化の相関係数がedgeに相当します。
 これまでのMRIでは脳血流・血液量、拡散係数、磁化率など様々な定量値画像が提案されてきました。しかし、いずれも局所信号の大小を見るもので、脳活動の接続性を的確に表現しているとはいえませんでした。一方、形態・機能的接続性解析は局所・全脳のネットワーク変化を直接的に捉えることのできる有望な指標だと考えられます。現段階では疾患群間での比較はできるが1症例の診断に活かすには群間の重なりが多いこと、計測に時間がかかることなどから、臨床に普及して行くにはまだまだ時間がかかりますが、疾患特有の接続性変化が解明され、技術の進歩により撮像時間が短縮することなどによって、MRI検査に必須のものとなる日も遠くはないかもしれません。

文責: 阿部 修
所属: 東京大学大学院医学系研究科放射線医学講座
所属学会: 日本磁気共鳴医学会・日本神経放射線学会