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第34回 「ストレス」、なぜ? どうする?

 ストレスに関して、第一回目の「ストレスと脳」(http://www.brainscience-union.jp/trivia/trivia867)につづく第2弾です。一回目ではストレスをストレスチェックで測ることの大事さを述べています。今回は、どうしてストレスがあるのか、そして、どうすればいいのかを考えてみたいと思います。

ストレスとは、堅苦しく言うと、生体が何らかの刺激を受けてダメージを負うこと、例えば脈が乱れたり血圧が高くなったりと、「生体の恒常性」が乱されたときの状態のことをいいます。厄介なのは、実際に身体がダメージを受けていないときでも、ダメージを受けると考えるだけでストレス状態となってしまうということです。現代社会ではこちらも大きなストレス要因となっています。

ストレス状態は生体にとっては本来、危険な状況です。従って何らかの対処をしなければなりません。ストレスは対処を促すための警告シグナルとして、嫌だというネガティブな感情を生じさせます。嫌だという感情が生じることで、そういう状況になった事の成り行きを頭に刻みこみ、次からはその状況にならないようにさせるというわけです。

一方で、ストレス状況を自身で乗り越えられるような体験をすると、嫌という感情がストレスの克服により報酬系が活性化され意欲が駆り立てられることもあります。そういう経験をすることで、逆境を力に変えて乗り越えることができます。

身体的にストレスがかかると、自律神経系が動き、アドレナリン・ノルアドレナリンが放出され、そして、副腎皮質からコルチゾールが放出されます。この(ノル)アドレナリンとコルチゾールは、身体に作用するとともに、脳にも作用します。例えば、エネルギー源である糖をつくり出し、血圧をあげるとともに、鎮痛系を活性化させ、多少不正確になろうとも迅速な情報処理を行うという緊急事態の「闘争・逃走」状態をもたらします。リスク評価や衝動的行動も修飾します。

こういったストレス反応のお陰で、急性のストレス負荷状態において生体恒常性が維持されるというわけです。従って、ネガティブな感情も含めストレス反応は生体にとって有意義で必要不可欠なものともいえます。

一方で、このストレス状態が長引くと、様々な病気を悪化させることが知られています。睡眠が障害され、休まらなくなり、ストレス増悪の負のサイクルが回ることもあります。数十億年をかけて進化させてきたストレス反応ですが、現代の状況では必ずしも最適ではありません。また、急性の対処としてはそれなりに適切でも慢性期にはどうしても無理がかかってしまうということもあります。

一方で、我々の体には、行き過ぎたストレス反応を緩和させる機序も持ち合わせています。例えば、適切な負荷の運動、自然との親交、マインドフルネスなどがストレスを緩和させると報告されています。自分なりの方法もあるでしょう。人に頼ることも大事です。もちろん、不調になりそうなときは、早めに、かかりつけ医に相談しましょう。

文責: 尾仲達史
所属: 自治医科大学・生理学講座
所属学会: 日本神経内分泌学会