第2回目 ミクログリアは脳のお巡りさんと救急隊
110番と119番、これらは社会システムにとってなくてはならない仕組みです。
脳内には神経細胞の他に数種類のグリア細胞が存在し、神経細胞の正常な活動をサポートしています。脳の中である時はお巡りさん、ある時は救急隊、さらにある時は危険物処理の役割までも担っているのが小さなグリア、ミクログリアです。
普段ミクログリアは一定の間隔で存在し、それぞれ半径数百ミクロンの範囲を管轄します。この所轄内に異常がないか、突起を伸ばしたり縮めたりして警戒業務を行なっています。どこかで何か問題が生じると、最寄りのミクログリアは突起をスクランブル発進(伸展)し、次いで周りから多くのミクログリアが支援のために駆けつけ、異常が起こった領域や細胞を取り囲み隔離します。
場合によっては活発に貪食(除去作業)を開始します。
ミクログリアの特定の分子の遺伝子が変異した家系ではアルツハイマー病など神経変性疾患が発症しやすいことも知られています。このように、ミクログリアはお巡りさん、救急救命士、危険物処理班など様々な顔を持ち脳内環境を保つ重要な役割を担っています。
しかし、反面ミクログリアは悪玉の顔も持つ少々厄介な細胞です。状況によっては炎症を引き起こす分子を産生し、正常な神経細胞を誤って攻撃することがあります。例えば、神経障害性疼痛や慢性ストレス時に起きる異常な疼痛の一部にミクログリアは関係します。
このように、ミクログリアは脳では諸刃の剣となりえます。そこで、このミクログリアをうまくコントロールすることにより、脳の環境を良い状態に保ち続ける方法の開発に研究者は取組んでいます。
文責:木山博資
所属学会:日本神経化学会、他
所属機関:名古屋大学大学院医学系研究科 機能組織学